かつてこのゲームの公式ノベライズが日本語化出版された

 ゲーム小説?「エバークエスト 連合帝国の興亡」(2005年)に関する重箱の隅的突っ込み。(参考 『エバークエスト 連合帝国の興亡』 amazon ってまだ在庫あるんですか……)

 最初に全般的な設定についての読者所感。著者は初期(拡張無な頃)のEQについてかなりのプレイヤー的知識があるようです。しかしクナーク以降の知識は薄く感じられ、Luclinについては若干の設定情報を公式関係から得ているのかもしれませんが、この辺は明らかに情報が不足しているか、プレイしていないように伺えます。
 設定上のミスについて。原因としては、1.著者(監修)の認識不足によるもの、2.ゲーム公式の設定段階で問題があり著者だけではどうしようもないもの、3.本著より後の設定や知識によりミスとも看做しえるもの、4.厳密なミスではないがその世界観の中で納得しにくいもの、くらいに分けて考え、3とかに分類されるものは、あまり突っ込まないよう記述しません。

 1.の例。『月の姿をみつけた。そこに佇んでいると言われる女神と同じ、ラクリンの名で呼ばれている月だ』(p159)ラクリンが隠蔽された月であることは、公式でも広く宣伝されてきたこと。地上から見える月はDrinalで、全く違う神の名を持つ天体。こういう間違いをされると……。

 2.典型的には、連合帝国にEruditeが参加している問題。Erudinに関する初期の歴史設定では、島の(人類による)発見や種族としての成立は連合帝国滅亡後の年代にあたります。しかし、Luclinを開発した人たちはこの事実を知らなかったか、設定を変更した。
 プレイしていれば当然わかることですが、Kattaの街(連合帝国生存者の子孫)にはEruditeがいます。また、本著が主張しているように、転移塔が連合帝国の製作したものとすれば、Odus島にある転移塔を合理的に説明するには、この時代Odusに連合帝国加盟種族がいたことに。
 しかし、開発段階からの設定の捩れについてまで、著者の責任とするのはどうか。(私が読んだ頃ちょっと検索したら、この点を挙げた批判があった記憶)この捩れを、世界内で解決しようとしたら、「Eruditeが連合帝国への参加をなかったことにして後代歴史を書き換えた」とでもするしかありません……。(連合帝国と「魔法」への偏見が強かった時代があるとすれば、理解できなくもありませんが)

 ちなみに本著は転移塔(スパイア)を連合帝国の地相占い師グリーグ(ゲーム中でもLuclinにいたあの人ですね)が作成したとします。しかし、KunarkからVelious、SoLへ至るゲーム設定解説的読みもの『Al`Kaborの手記』では実は連合帝国以前からあった、と書かれています。(その研究の結果、Luclinが発見されます)
 その辺の細かいクエスト廚的知識を、著者は完全に切り捨てています。マニアックすぎて取り入れてもほとんど誰も気づいてくれないと思ったのか、そもそも著者が知らなかったのか。何となく後者のような印象がするところが、損をしているような。

 これは1.のミスなのか、誤訳なのか読んだ段階ではわからなかった問題です。『ルセア皇后が(中略)皇后はほとんどフェイル・ダル並みに細身の女性で、まるでエルフの射手のようだった』(p149)フェイル・ダルとはウッドエルフのこと。
 このルセア皇后は、ゲーム中も存命で、Kattaにいらっしゃいますが、えーと……どう見てもウッドエルフなのです。著者は、それを知らなかったのでしょうか? それとも、著者は『彼女は細身のフェイル・ダルで、まるで射手の~』と書いたのを、翻訳者が誤訳したのでしょうか?
 翻訳後の日本語を見た感じ、誤訳なんじゃないか? との印象は拭えません。Kattaは人類ですが、種族を超えた同盟を築いた人であり、妻はエルフだった、と考えて不思議でもない。翻訳者は有名な方ですが、原典ゲームの経験がないらしいので、そこをチェックできるスタッフは必要だったかと。

 ダークエルフ好きに贈る、1.っぽい不審点。本著では、ダークエルフから連合帝国へ訪れた外交使節の名を『ナズ・ヴリール』とする。ところで、ゲーム中Kattaの街にはDralin K`Veknというダークエルフがいます。連合帝国への大使でしたが、政変で帰れなくなり、彼らと一緒に数百年。
 今(ゲーム中現在)は人類の妻を持って、ハーフエルフの子どもを持っていたりする。という歴史の複雑さや種族による寿命差とかを垣間見せるフレーバー的NPCなのですが、著者はこのNPCを知らなかったのかなあ。それとも、もうちょっと敵対的なキャラが欲しかったのか。

 3.かあるいは1.な問題なのか。本著はいわゆるEvil系種族(除ダークエルフ)を同一陣営であるかのように描写する傾向があります。シッサーをラロス・ゼックと同盟して滅んだとか、トロールもそうだとか。そういう伝承がある、と言っているだけなので、伝承自体がいい加減なものだ、という解釈は可能。
 Rallos Zekは最初からEvil扱いではなく、Barbalianの一般的信仰でもあります。物語的に悪役な立場となり、昔他の神々との闘争に手下種族(Ogre、Giant、Goblin、Orc)を動員してPlane of Earth侵攻をやり、失敗してその辺の種族を没落させています。(恐らくこの時にシッサーも同盟に加わった、というのが本著の路線)
 また、PoPからEQ2へ続く重要なストーリー上の展開として、地上種族撲滅策作戦を実行しようとします。いわゆる「存在自体が邪神」ではないのですが、それ以上に人類たちにとっては困った存在です。

 最後に、単なる謎として。本著はさらりと『ノーラス全土に散在させている十以上のスパイア』と書いていますが、ゲーム中現在(私がプレイヤーだった、拡張でいえばOoWの頃)、Antonica(含Odus)、Faydwer、Kunarkを合わせて既知のスパイアは10未満だった記憶があります。まあ未発見のがあるだろ、って見込みで書いたのでしょうか。


 4.にあたる、ストーリー展開として納得できなかった部分を挙げますと……。(ネタバレ注意)

 連合帝国は、転移魔術を独占し、転移塔を二つ(あるいは三つ)の大陸に配置しています。これは、軍事的にもきわめて大きな変革となるはずです。転移塔さえ確保していれば、軍隊の移動や兵站が、完全に安全な場所で短時間に行えるのです。
 それこそ、将軍が前線で指揮しつつ、日帰り会議出張も不可能ではないと思うのですが。というか、帝国はそういうのを売りにして各種族を勧誘しているんじゃないの?
 まあ、そこはともかく。そういう帝国で皇帝暗殺未遂とクーデターが起き、皇帝側が転移術で脱出した後。皇帝が何の説明もなく「船で涙の海を渡って拠点へ帰ろうとする」って、どう考えても説得力のある行動と思えません。転移術でカラナ平原のスパイアに飛べば一瞬(正確には10秒?)なのに。
 著者的にこの展開にしたいのは、とてもよくわかります。涙の海であれを出して、あれで、あの伏線も見せたいし。ええ。だから海を渡らせないといけない。でもそうするだけなら、より説得力のある展開はいくらでも思いつきますよね。なぜそうしないのでしょうか?
 クーデター側がスパイアを押さえて皇帝派の行動を制限するのは、クーデターを真剣にやるなら当然でしょうし、実際ゲーム内にはこの時皇帝派が虐殺されたと伝える『Circle of Light』クエストの伝承もあります。この辺を三行書いてくれれば、クエストおたくも喜んで納得するのに。
 それでも、どうして最初に転移術での脱出を許したのか(将軍側は全スパイアに部下を配置しておけなかったのか?)という疑問は残りますが……。ちょっと工夫してくれるだけで引っかかり少なく読めると思うのです。
 連合帝国という特殊環境を強調した描写の部分と、(ゲーム内現在を基準とする)EQらしさ、そしてふつうのファンタジー小説っぽい発想が、調和していないというか、練りこまれていない印象を受けました。プレイヤーから見たEQらしさは割と出ていたので、その点では失敗ではないと思います。

 これ以上書いてもつまらなくなりそうなので、この辺で。というか、面白いと言ってくださる狸さんがいるなら、こんな話より『Seeds of Destruction』のZebuxoruk様のけなげさとかを語りたい。